“平成のエラリー・クイーン”青崎有吾のデビュー作にして、裏染天馬シリーズの第1弾。
タイトルのとおり学校の体育館で密室殺人が起こるミステリー小説です。
探偵役の裏染天馬が学校を住居としているアニメオタク少年という個性的なキャラで面白いです。
学園モノらしく比較的明るい雰囲気で、内容も読みやすいし、ミステリー初心者もライトに楽しめる作品だと思います。
それでいて推理は本格的!
体育館の殺人
- 著者:青崎有吾
- ジャンル:ミステリー小説
- 発行年月日:2012年10月
あらすじ
風ヶ丘高校の旧体育館で、放送部部長の朝島が刺殺された。現場はなんと密室状態。
唯一体育館にいた女子卓球部の部長の犯行ではないかと嫌疑がかかるが……。
卓球部員の柚乃は、部長の容疑を晴らすため、学内一の天才といわれる裏染天馬に真相の解明を依頼する。
だが、彼はとんでもない変わり者だった。
感想(ネタバレあり)
体育館という学生にとっては身近で日常的な場所を舞台にしているのも珍しいですが、なんとその広い体育館のステージ上で密室殺人が起こるという設定が斬新で興味深かったです。
さらに、探偵役の裏染天馬が、学校に住み着いて引きこもっているアニメオタクという、天才でありながら型破りなキャラでこれまた面白いです。
読んだきっかけ
この小説をきっかけに読書をするようになりました。
もともとミステリー小説は好きではありましたが、特別本を読むタイプでもなく、ここ数年はほとんど読んでいませんでした。気になる作品をAmazonのほしい物リストに突っ込んで、いつか読もうと思っていたけど結局読まないまま……。
ただ、ある日、本当に気まぐれだけど暇つぶしに何か読むかと思って、取りあえず手軽に安く読めるものをほしい物リストに入れておいた中から探したところ、この作品がPrimeReadingで読めるようなので、これにするかと軽い気持ちで読み始めたのです。
読んでみたら、久しぶりの読書だけどすらすら読み進められるくらい読みやすくて、物語に没頭できました。
読み終わったあと、これはシリーズをそろえたいなと思い、そろえるからには全部そろえなきゃ気が済まないので、わざわざ買い直しました。
体育館で密室殺人?
体育館で密室殺人というのがなかなか斬新。
近くに生徒がいる状態の中、体育館という日常的に利用される場所のこんな広いステージの上で密室殺人が起こなわれるだなんて、一体どうやったんだろうと興味を惹かれました。
裏染天馬について
この作品の探偵役である裏染天馬という人物は、テストで簡単に全科目満点をとる天才でありながら、極度のアニメオタクでもあるというところ特徴です。
しかも、なんと学校の空き部室を内緒で住居とし、引きこもってアニメや漫画に囲まれて暮らしているというクセの強いキャラです。
作中では数多くのアニメネタが出てきます。アニメに詳しいとニヤニヤできそう。私はアニメを観ないわけじゃないけど、大して詳しくはないから、わからないネタもありました。悔しい。
変わり者で普段はアニメしか興味なさげだけど、その頭脳は本物で、テストはその気になれば簡単に全科目満点をとれるし、僅かなことから的確な推理をすらすらと述べてみせる天才少年です。
ただ、正直に言うと、最初はこの裏染天馬のひねくれた態度が何となく鼻につくなと思っていました。
そう言う私もひねくれ者なので、裏染が最初から最後まで全てお見通しで完璧な推理だけで終わらせていたら、なんか気に食わない奴だなと感じていた可能性があります。
でも、推理が外れて裏染が盛大にヘコんでいる様子を見て、溜飲を下げると言ったらアレですけど、こういう一面もあるんだと好感度が上がりました。
その絶望しているときの一言が「幼女の集団に順番にビンタされて死にたい」なのが笑えます。
ヒロインの袴田柚乃とのやりとりも好きなので、今後が気になるところ。
犯人の予想
トリックがよく練られていて、裏染による推理お披露目はわくわくしながら読みました。
その前に、作者から「読者への挑戦」として犯人とトリックを当ててみよと言われるのですが、考えてみたけど私は推理力皆無なので最後のほうまで分からなかったです。早々と考えることを放棄していました…。
一応タネ明かしの途中で、犯人が生徒会長の正木章弘であることに気付きましたが、その理由が、「トイレにあった傘は犯人自身の物」→高級ビジネスブランドの傘だったので「こういう傘を持っていそうなのは正木だろう」という、そんな単純な理由です。ろくに推理していません笑
密室状態からの脱出については、みんながいなくなった隙を見て窓から逃げたのかなと思ったのですが、リヤカーに乗って脱出は全くの予想外でした。見えてなくても人間がリヤカーに乗ってきたら音や気配でバレそうな気がするけどどうなんだろう?
今思えば、正木が「小柄な体格」と言われていたのも、「小柄→リヤカーに隠れられる」というヒントになっていたのでしょうか。
この犯行現場からなかなか出るに出られずな状況は自分が正木の立場だったら心臓バクバクだな…と想像して、なぜか正木に感情移入しながらタネ明かしを読んでいました。
どういうトリックなのかと予想してもわからなかったので、全て明かされてスッキリ。
それにしても、あれだけの証拠からここまで論理的に推理を披露して見せた裏染くんはやはり天才…。
真実
明かされた犯行の動機は驚くほど単純なものでした。
テストでカンニングしたのがバレたから殺しただなんて…。それほど「優等生の生徒会長」の地位を壊したくなかったわけですね。
正木は裏染に対しても余裕のある態度で接していて、さすが生徒会長は大物感があってかっこいいなと思っていたので、意外と小物だったのが残念な気持ち…笑
さらにラストにもう一つ真実が明かされます。
事の発端は、生徒会副会長の八橋千鶴が仕組んだことでした。ここまでお見通しだった裏染くんさすが。
カンニングの常習犯扱いされた正木でしたが、初犯だったわけですね。
八橋さんは柚乃に裏染のことを教えてくれた人ですが、ミステリアスで怪しい雰囲気を漂わせていたので、黒幕と言われたら納得ではあります。
謎の秘密基地感に童心が蘇る
最後に、個人的に気に入ったポイントを語ります。
自分でもズレた感想と思うし、この気持ちを言語化するのが難しいのですが、この作品を読んで全くストーリーと関係ないところでわくわくしていました。
裏染は学校の空き部室に内緒で住んでいるという型破りな設定なのですが、この設定が惹かれたのです。
子供の頃、学校は好きではなかったけど、もしも学校を家にして住んだら面白いなという妄想をしていた記憶があります。だから学校に住む裏染を見て妙に好奇心を刺激されたし、何だか秘密基地みたいだー!と子供のような感想を抱きました。
さらに、他にもこの作品の中で謎の秘密基地感を抱いた場所があります。
それは体育館の放送室です。あそこは子供時代の私にとって未知の存在だったのでした。
小学生の頃、体育館の上のほう(時計がある所ら辺)に放送室の窓が見えていて、あの中はどうなっているんだろう、行ってみたいと子供心によく思っていました。
これまた秘密基地みたいだと勝手に思っていました。
ここが作中の舞台として登場することが、人には理解されないであろう自分的お気に入りポイントです。
全体の感想
学園らしい明るさや青春っぽい爽やかさもありつつ、本格ミステリーでもあり、推理部分との緩急が好きです。
テンポも良くて久しぶりの読書でもすらすら読めて読みやすい作品でした。
密室殺人の仕掛けもしっかり考えられていて楽しめたし、裏染の天才っぷりや個性的なキャラにもすっかり惹かれました。
面白かったし、登場人物に愛着が持てたので、ぜひ続編や作者の他作品も読んでいきたいです。